たとえその目で実物を見たことがなくても、誰もが知っているこの名前『オニヤンマ』。言わずと知れた日本に生息するトンボの中でも最も大きなトンボです。
昆虫に限ったことではありませんが、『最大』『最小』というのはいつの時代も人々の関心を集めてしまい、それが日常的に目にすることができないとなるとなおさらです。
そこで今回は知っているようで知らない『日本最大のトンボ・オニヤンマ』について詳しく見ていきたいと思います。
目次
オニヤンマとは?
オニヤンマの特徴
オニヤンマの体色は黒が基本ですが、全身に黄色の模様が入っているのが特徴です。
この模様は胸部(正面から見て羽の前あたり)は『ハの字』、側面に2本、腹から尾にかけては各節に1本ずつとなっており、頭部や羽の付け根にも無数の模様が点在しています。
左右の複眼はエメラルドグリーンで頭部中央でわずかに接していますが、標本にすると黒褐色に変色してしまいます。
またオニヤンマの最大の特徴であるその大きさは、頭部から尾の先端までで90㎜~110㎜、羽を広げると120㎜~140㎜にも達し、メスのほうがオスより一回り大きくなっています。
オニヤンマの住んでいる所
オニヤンマは北海道から八重山諸島まで、ほぼ日本全土に広く分布しています。
基本的にヤゴ(トンボの幼虫)が水のきれいな小川に生息しているためその周辺で見られることが多いのですが、繁殖を始めるまでは広範囲に渡って行動するため、時として隣接する都市部等でも飛んでいる姿が目撃されることもあります。
つまり成虫の短い期間ではありますが、あなたの住んでいる街にも飛んでくる可能性があるのです。
オニヤンマの幼虫(ヤゴ)
オニヤンマの産卵は水のきれいな小川等で行われます。これは多くの種類のトンボのヤゴが池や沼などで生活するのに対し、オニヤンマのヤゴは川を生息域としているためです。
卵は約1週間ほどで孵化しヤゴとして生活を始めるのですが、生まれたばかりのヤゴは半透明の白色をしており、腹部も短いです。
ヤゴはその後成長していくにつれ茶色から黒っぽい色に変化していくのですが、他のヤンマ類のヤゴと異なり体にくびれがありません。つまり平たく言うと『ずん胴』です。また体中に細かい毛が生えており、脚も太くて短いです。
ヤゴは生まれた当初はミジンコ・アカムシ・ボウフラなどを捕食しますが、大きくなるにつれオタマジャクシや小魚・昆虫、時には他のトンボのヤゴやエサがない時には共食いまでしてしまいます。
その食性は極めて獰猛で、近づくものはなんでも捕食してしまいます。基本的な狩りの方法は、水底の砂や泥の中に隠れ目だけを出して獲物が近づいてくるのを待ちます。そして獲物が通りがかると鍬が付いた下唇を伸ばし、目にも止まらない程の速さで捕獲します。
またオニヤンマのヤゴは他のトンボ類と違って、越冬を繰り返し5年もの間ヤゴとして生活することが知られています。その間に10回ほど脱皮を繰り返し、採集的には約5㎝もの大きさにまで成長します。
成虫が大きいだけに幼虫もそれなりの大きさになるわけです。
そして夏の夜に成虫へと羽化するのですが、この時は水面上の石や木の枝・杭などを伝って、はじめて地上に姿を現します。その後ゆっくりと時間をかけてヤゴの殻を抜け出し、朝になるころには立派なオニヤンマの成虫になっています。
オニヤンマの成虫
その後羽化したオニヤンマは大空を飛び回りながら捕食を続け、1~2週間ほどで成熟(繁殖活動ができる体になること)します。
この期間は獲物を求めて様々な地域を飛び回るため、時として市街地にも飛来することがあります。
オニヤンマの成虫は主に他の昆虫、ガ・ハエ・アブ・ハチなどを捕食しており、その捕獲は空中で行われます。つまり飛びながら獲物を探し回り、飛んでいる獲物を見つけるとその強力な足で捕まえ強力な顎で捕食してしまうのです。
こうして体が成熟したオニヤンマのオスは小川等の近辺に移動し、一定区間の往復飛行を繰り返します。
そしてメスが飛来すると追いかけて捕まえ、交尾・産卵を行います。ちなみにトンボの中には交尾をしたまま産卵を行う種もいますが、オニヤンマは交尾を終えるとメスはオスから離れて単独で産卵を行います。
オニヤンマの驚くべき生態
それでは次に、あまり知られていないオニヤンマの驚くべき生態について見ていきたいと思います。
オニヤンマは空飛ぶ昆虫の中で最強?
オニヤンマは日本のトンボの中では最大として有名ですが、実は大きいだけでなく最強とも言われており、時にはシオヤアブやスズメバチでさえオニヤンマの餌食となってしまうことがあります。
ただ時には立場が逆転し、スズメバチやシオヤアブに捕食されてしまうこともあるようです。さすがに自然界では必勝というわけにはいかないようですね。
また食欲も旺盛で、時には自分よりも大きなセミを捕獲して捕食してしまうこともあります。
さすがにこれだけ大きな獲物になると、捕えて地上で捕食しています。
オニヤンマのヤゴは水中最強?
実はオニヤンマのヤゴも成虫に負けず劣らずでかなり獰猛で、近づくものは何でも捕食しようとします。
時には自分より大きな獲物も捕らえて食べてしまいます。
さらにはとても縄張り意識が強いため、時には同種同士で共食いしてしまうこともあるのです。
最強の遺伝子は幼虫の時から既に併せ持っているようです。
オニヤンマの目
オニヤンマは頭の左右に大きなエメラルドグリーンの複眼を2つ持っていますが、実はその間に3つの小さな単眼も持っています。
この3つの単眼は光の感知の為に使われており、これにより空間識をつかさどっているのです。つまり簡単に言うと、空中で常に自分の姿勢を把握できるということです。これにより空中での自由自在な動きが可能になっているのです。
左右の複眼はおよそ2万個もの個眼で構成されており、頭部でつながるほどの大きさのためその視野は約270度とも言われています。つまりほんの少し頭を動かすだけで、ほぼ360度を見渡すことができるというわけです。
また時間の分解能が高く、人間では1秒間に60回が限界だと言われている光の点滅も、150回ほど見分けらることができると言われており、これはつまり動体視力がとんでもなく高いことを意味します。
ただ動体視力は高い(動いているものを感知できる)ものの、視力そのものは低い(動いているものの形を正確に把握できない)ようで、特に回転しているものは見分けがつかないようです。
また色に関しても人間は赤・青・黄の三原色を認識することができますが、トンボの複眼は紫外線と青緑は認識しますが、赤の認識が弱いと言われています。
このような特徴を持った目のため、特にオスは羽ばたいているものや回転しているものをメスと認識してしまうことがあるようです。
オニヤンマの飛行
オニヤンマの強さの秘密はその大きさだけではなく、とんでもない飛行能力にもあります。
飛ぶ速度は最高で時速約70㎞にも達します。これに対しスズメバチは時速約40㎞。さすがに倍ほどの速度差があれば、オニヤンマに背後から迫られればスズメバチはなすすべもないでしょう。
またただ早いだけではなく、ホバリング(空中静止)やバック飛行も可能です。
さらにこれはトンボの仲間でではよく見られる特徴なのですが、ホバリング状態から一気に加速し最高速度まで達するのがとてつもなく早いのです。
オニヤンマ科
日本には約200種類ものトンボが生息しており(正確にはトンボ目と言う)、翅の形や大きさ、休んでいる時の翅の状態などで大きく3つに分類されます。
- 均翅亜目(イトトンボ亜目)
- 不均翅亜目(トンボ亜目)
- 均翅不均翅亜目(ムカシトンボ亜目)
オニヤンマはトンボ亜目に属し、その中のオニヤンマ科に分類されます。トンボ亜目の中にはヤンマ科という分類もあり、これにはギンヤンマなどが属しています。つまり同じヤンマという名前が付けられていても、オニヤンマとギンヤンマは別の種類だということです。
それにしてもオニヤンマという名前。聞き慣れているからかもしれませんが、いかにも大きくて強いというイメージが湧いてきます。
もしこれがオニトンボだったら?
ちょっと拍子抜けしてしまいますね。(笑)
コメント