ホンダとヤマハが業務提携、その先には?

裏話

2016年10月5日、国内二輪車市場の歴史に残る大きなニュースが発表されました。

国内二輪メーカー4社の中でシェア1位と2位であるホンダとヤマハが、業務提携の検討を開始することを発表しました。

報道では『業務提携の検討を開始する』と発表されていますが、実際はメディアに公表する時点で業務提携の方針は大方決まっており、今後はより具体的な内容やスケジュールが随時発表されていく、というのが一般的な流れです。

この二輪業界だけではなく、日本経済にも少なからず影響を与えるであろうホンダとヤマハの業務提携について、少しだけ『独り言』をつぶやいてみたいと思います。

目次

これまでのホンダとヤマハ

皆さんご存知の通り、日本国内には4つの二輪車製造会社が存在しています。

  1. ホンダ
  2. ヤマハ
  3. スズキ
  4. カワサキ

かつては(私が生まれるよりももっと前)有名なところであれば『メグロ』や『陸王』なども存在しましたが、現役で二輪車に乗られている方のほとんどは上記4メーカーの名前がすぐに出てくると思います。

また上記4メーカーのご紹介順は、近年における日本国内でのシェア獲得数の順番にもなっています。

特にホンダとヤマハは1979年ごろから1983年ごろにかけて国内二輪車市場において激しいシェア争奪戦を繰り返した間柄で、後にこの争いは『HY戦争』とも呼ばれています。

HY戦争(Wikipedia)

しかしその後日本国内における二輪車市場のシェアはホンダがトップを獲得、その後30年以上にも渡って2位のヤマハ以下3社が追従しているという状況が続いています。

この両社の関係は、分かり易く四輪車業界で例えると『トヨタ』と『日産』のようなもの。

つまり今回の発表は『トヨタと日産が業務提携を発表した』と考えて頂ければ、その内容がどれだけ衝撃的なものであるかご理解いただけると思います。

プレスリリースの内容

それでは今回発表された、プレスリリースの内容について見ていきたいと思います。

1.50㏄スクーターのOEM供給

Hondaが生産・販売を行う日本市場向け50㏄スクーター『TACT(タクト)』・『Giorno(ジョルノ)』をベースとしたモデルを、2018年中の開始を目標に、ヤマハへOEM供給します。
ヤマハは、このOEM供給を受け、それぞれ『JOG(ジョグ)』・『Vino(ビーノ)』に該当するモデルとして、販売する予定です。

2.次期50㏄原付ビジネススクーターの共同開発・OEM供給

現在、日本市場向けにHonda『BENLY(ベンリィ)』、ヤマハ『GEAR(ギア)』としてそれぞれ開発・生産・販売している、50㏄原付ビジネススクーターに関して、次期モデルの共同開発、及びHondaからヤマハへのOEM供給を検討します。

3.原付一種クラスの電動二輪車普及に向けた協業

日本市場における原付一種クラスを中心とした電動二輪車の普及を目的に、航続距離・充電時間・性能・コストといった課題の解決を目指した基礎作りの協議を検討します。そして、今後生まれる取り組み成果を同業他社、異業種にも広く提案することで、電動化の普及に取り組みます。

これらをそれぞれ説明していくと、

  1. ヤマハは50㏄の生産(現在は台湾工場で生産し輸入している)を中止し、ホンダからOEM供給を受ける。そして現在、製造・販売している『ジョグ』・『ビーノ』の後継モデルとして販売する。
  2. 50㏄のビジネススクーターを共同開発し、ホンダの工場にて製造を行う。ホンダは『ベンリィ』の後継モデルとして、ヤマハは『ギア』の後継モデルとしてOEM供給を受け、それぞれ販売する予定。
  3. 原付一種クラスの電動二輪車の普及を共同で行っていく(開発・生産も含めて)。また同業他社や異業種にも様々な提案を行っていく。

つまりポイントとしては、

  1. ヤマハは50㏄の生産から撤退し、ホンダから製品を供給してもらい販売していく
  2. 新たな共同開発の製品を作る
  3. 電動二輪車の普及活動を共同で行っていく

この3つが要点になります。

業務提携に至った背景

今回、異例とも言える業務提携が発表されたわけですが、ここに至った背景について見ていきたいと思います。

国内二輪市場の縮小

かつて日本国内では『二輪車ブーム』と呼ばれた時代がありました。概ね1980年代中頃から1990年ごろまでの間です。

当時の日本国内における二輪車出荷台数は、ピーク時の1982年で約329万台。それがここ近年は年間40万台付近で推移しており、今年2016年は40万台を下回ると見られています。

ここで一つ注意していただきたいのは、これらの数字が『出荷台数』であるということ。

二輪車という製品において台数という数字を見る場合、これらの大多数は単価の低い商品、つまり50㏄(原付一種)が占めています。

つまりこの30年あまりの間の数字の落ち込みは、原付一種というカテゴリーがとんでもなく縮小したということを表しているのです。

単価の低い商品は数が命

バイクに限らず製品というものは、単価に比例して利益額も上下します。

つまり単価が下がれば1台当たりの利益額も下がってしまいます。

そのため開発・製造、その他の経費も含めて単価の低い製品の採算を取ろうと思えば、どうしても数を販売する必要があります。

しかしこの30年あまりで二輪車市場は約10分の1まで落ち込んでいます。しかし販売単価は10倍にはなっていませんよね?

各二輪メーカーは販売台数の下落に対し、様々な対策を実行してきました。

  • モデルチェンジ
  • ラインアップの充実
  • 製造コストの見直し
  • 海外生産

しかしそれらのどれを持ってしても、もはや一企業の力だけでは対抗しきれないところまで来てしまったのです。

ホンダ・ヤマハ共に販売台数が減少

今回の報道内容を見ていると、『ヤマハが原付一種市場から一歩撤退し、ホンダに業務の一部(製造)を委託した』と思っている方もいらっしゃるかもしれません。

ある意味これは間違っていないのかもしれませんが、実はホンダにもヤマハの要請を受け入れたい実情がありました。

ホンダは昨年あたりからそれまで海外で生産・輸入・販売を行っていた機種を廃止し、50㏄の製造を全て熊本工場に移管してきました。

しかし4月の熊本地震の影響を除いても、熊本工場はフル稼働には至っていないのです。

例えば例を挙げて説明すると、この工場が月に150万台の二輪車を製造することを想定した規模だったとします。しかし注文が入らず毎月100万台しか製造していなかったとすると、、、、

もちろん毎月赤字であり、それが月を追うごとに膨れ上がっていくのです。

つまり工場はその想定した規模の稼働を行っていく必要があるのです。

もうお分かりかと思いますが、ホンダはヤマハへOEM供給する製品の製造を請け負うことで、工場をフル稼働状態にすることができるというわけです。

ホンダとヤマハが業務提携することによって起きること

ホンダとヤマハが業務提携することによって、当面、両社の経営状態は改善されていくことでしょう。

しかしその先にはいくつかの懸念と、様々な課題が残されているのも事実です。

両社の業務提携により国内二輪市場が活性化され販売台数が伸びれば、その後また様々な明るい方向性も考えられます。

しかし今回の業務提携の裏側には、このような事態が既に見え始めています。

  • 商品のラインナップの少なさ(OEMであれば多少外見が違っても中身は同じである)
  • 選択肢の少なさによる更なる二輪車離れ(魅力的な二輪車がない)
  • 第3位のメーカー(スズキ)の今後(さらに追い込まれるのか?浮上するのか?)

ちなみにカワサキは原付一種市場には参入していないため、今回の業務提携による影響は全くないでしょう。

しかしスズキは以前から積極的に原付一種市場に参入してきたメーカーであるため、ホンダ・ヤマハ2社の技術力・製品魅力に対し、1社で対抗していく形になります。

特に今後普及が進められていく電動二輪車においては、さらに苦戦を強いられそうです。

最後に

どれだけ二輪市場が縮小したとしても、この世から全くなくなってしまうことは考えられません。

二輪車が世の中で必要とされる限り製造メーカーは存在し、販売店も存在し続けるのです。

今回の業務提携は近年の二輪車業界にとって、とても大きな事件であることは確かです。

願わくばこの事件が二輪車業界だけでなく、日本経済にとってもプラス方向に働くきっかけとなってくれないものか?

この世界に身を置く者としてはそう願わずにはいられないのです。

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